誰かのことを思い出し、語りたくなる<聞き書き映画>
『A Window of Memories』は、これまでベルリン国際映画祭などで国際的に評価されてきた清原惟監督が、はじめてドキュメンタリー的手法で制作した<聞き書き映画>である。監督が母方と父方それぞれの祖母から聞いた人生の話を、祖母と一緒にテキストに起こし、それをふたりの俳優が朗読するというこれまでにない手法で紡がれている。
三宅唱監督『THE COCKPIT』、草野なつか監督『王国(あるいはその家について)』、小森はるか監督『空に聞く』、小田香監督『セノーテ』などの注目作を手がけてきた、愛知芸術文化センター・愛知県美術館のオリジナル映像作品として制作され、昨年開催の山形国際ドキュメンタリー映画祭2025ではインターナショナル・コンペティションに選出、観客から高い評価を受けた。
出演するのは、劇団ままごとに所属し演劇ユニットhumunusのメンバーでもある小山薫子と、パフォーミングアーツコレクティブ「バストリオ」や、バンド「山二つ」のメンバーとして活躍する坂藤加菜。スタッフには清原監督と旧知の仲である太田達成(『石がある』監督)、岩﨑敢志(『うってつけの日』監督)が助監督や構成としてクレジットに名を連ねている。
小さな声を拾い集めてきた清原監督のこれまでの作品とも共通するテーマをもつ本作は、日記を書くような親密さで、身近な人の声に耳を傾け、どんな人にもあるであろう人生のきらめきを信じる力に満ちている。誰かのことを思い出し、語りたくなる傑作が誕生した。
記憶の窓をひらいて、あなたと出会いなおす
「私が聞かなかったら、この話はどこに行くんだろう」。ふとした時に聞いた祖母の若い頃の話に心動かされた監督は、母方と父方それぞれの祖母から人生の話を聞こうと思いたつ。忘れないようにと回し始めたカメラに映る、家族、戦争、仕事、結婚、飼い犬、友だちの話。同世代である二人の、交差しながらも全く違う世界を、祖母たちと共に文字に起こしていった。そうやって編まれた物語を、監督は二人の俳優に託し、一日をかけて朗読してもらう。やがて世界にたったひとつの物語が、見ている私たちの記憶に連なっていく。知らないはずの記憶があなたやわたしと呼び合い、こだまする。
Director’s Comment
子どもの頃、父方の祖母と母方の祖母の家に、それぞれよく遊びに行っていました。二人とも私の「おばあちゃん」なのに、二つの家の場所は物理的にも離れていて、生活のあり方も全然違うものだったことがとても不思議でした。それぞれの家に行っている時は、まるで別の世界を行き来するような感覚だったように思います。
そんな祖母たちの話を、じっくりと聞いてみたくなったのは、母方の祖母の一言がきっかけでした。私が子どもの頃にはとうに全盛期を終えていた祖父の工場(こうば)で、妻である祖母も働いていました。祖母が言ったのは、その工場を自分が切り盛りしていて、時には経営の判断もしたりしていた、ということでした。祖父を立てる必要があり、そのことは長らく誰にも話してこなかったそうです。一度も聞いたことのなかったその話に驚き、祖母の内にあるさまざな思いが私のなかに流れてきたのでした。このまま、ちゃんと話を聞く機会がなかったとしたら、しまわれた話はどこに行ってしまうのだろう。かき立てられるように話を聞き、記録をし始めました。
映画では、祖母たちの言葉で語られる人生を、祖母たちと共にテキストに落としこみました。それを、私と近い年代の二人の女性に朗読してもらっています。朗読する二人の声や身体を通して、人生の出来事が読み上げられる時、他人同士である祖母同士や、読んでいる俳優と祖母たちの記憶が重なり合ったり、混じり合うように見える瞬間に立ち会いました。
祖母たちの語りは、絶対に誰のものでもなく彼女たち自身のものです。そうした固有の経験や語りを、普遍性を帯びた物語として他者と共有することは可能なのか。このことは制作中ずっと考えていたことでした。
監督:清原惟(きよはらゆい)
17歳の時、初めて友人と映画をつくってから今まで、映画や映像をつくり続けている。大学院の修了制作である『わたしたちの家』(2017)が上海国際映画祭で最優秀新人監督賞を受賞し、ベルリン国際映画祭フォーラム部門など10カ国以上の映画祭で上映された。『すべての夜を思いだす』(2022)は北京国際映画祭Forward Future部門審査員特別賞を受賞し、ベルリン国際映画祭やサン・セバスチャン国際映画祭をはじめとした、様々な映画祭で上映される。2025年には東京・Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて映画館では初となるレトロスペクティブ上映を開催。ほかの活動として、土地やひとびとの記憶について、リサーチを元にした映像作品を制作している。
Filmography
2015 『ひとつのバガテル』長編 PFFアワード2015入選
2017 『わたしたちの家』 長編 PFFアワード2017グランプリ
第68回ベルリン国際映画祭フォーラム部門 出品
第18回クリチパ国際映画祭(ブラジル)グランプリ
第21回上海国際映画祭「Asian New Talent Award」部門 最優秀監督賞(他多数出品)
2017 『波』 短編
2018 『網目をとおる すんでいる』 短編
2020 『これが星の歩きかた』 短編
2021 『三月の光』 短編
2022 『すべての夜を思いだす』 長編 第13回北京国際映画祭「Forward Future Award」部門 審査員特別表彰
第73回ベルリン国際映画祭フォーラム部門 出品
ニュー・ディレクターズ/ニュー・フィルムズ 2023 出品
第29回釡山国際映画祭 A Window on Asian Cinema 部門 出品
第71回サン・セバスチャン国際映画祭 サバルテギ・タバカレラ部門オープニング上映(他多数出品)
2023 『A Window of Memories 』 長編 山形国際ドキュメンタリー映画祭2025インターナショナル・コンペティション 出品
女たちの語りと記憶を別の誰かに受け渡すのはどういうことなのかを探ろうと伝えようとする切実さがあふれる映画でした。
小林エリカ(作家・アーティスト)
田植えをしたばかりの田んぼに反射する光と、黄色いワンピース。
床が冷たかったあの夜のこと。
肌触りのある思い出は声によって体を持ち、誰かのもののはずなのに私にも降りつもる。
若いころ、飲み会のあとの終電車で、いくつもの光る窓をひとりみつめていたことを思い出しました。
高山なおみ(料理家・文筆家)
監督の母の母の記憶。
語ることで思い出されたこともあっただろうか。
その記憶を、娘でない「語る役」の彼女たちが、声に託して宿す。
その、少し遠回りに思える発話までのステップが心地よく、丁寧に映画として届けられた感触が心を柔らかくする。
私はとても個人的な気持ちになって、自分の心に関心を向けた。そこにある誰にも話しようのないものは震えていた。
志賀理江子(写真家)
監督の祖母となったふたりの女性。ふたりの俳優。
彼女たちの語りと声が重なり合う1日をカメラは追う。
ふたりの俳優の朗読から、息が苦しくなるほど豊かな「あの日」の情景が立ち上がる。
なんて色とりどりで、なんて切ないのだろう。
過ぎ去ったものたちはこうして映画になった。
どんなに幸いなことだろうか。
小田原のどか(彫刻家・評論家)
作品ならばずっと覚えてくれている、
何度だって再生できる、
あなたたちの生きた歴史を私の手で守るように、
かならずここに残す。
清原監督は
記憶という形のないものと向き合う時に
映画を呼び寄せる、澄み切ったひと。
ゆっきゅん(DIVA)
目につく一等星だけが宇宙ではない。すべての星が夜空を形作っている。
歴史も大文字の人物だけでは語れない。それはすべての人の生き方の集積である。
清原惟という天文台は、「もう一つの声」というレンズを手に入れて、二人の祖母それぞれの生き方から、人知れずきらめく一対の連星を見つけ出した。
岡田秀則(フィルム・アーキビスト)
ふたりの祖母の人生を、ふたりの俳優が朗読する。耳に残ったのは、その語尾だった。
「救われたわね」「日曜が終わるじゃん」「心が痛むわね」……。記憶は、わかりやすい物語としては差しだされない。
祖母の意思をききながら共作したテキストが、俳優の声を通して、まだ見ぬ場所へと運ばれていく。
必然の遠回りのような記憶の受け渡し方は、誠実でマジカル。物語化されない人生のイメージが、無数のひとりひとりの声と響きあう。
野村由芽(編集者/me and you)
CAST
小山薫子
1995年東京生まれ。俳優。土地や環境を構成する物質やその肌理を観察し、声と身体を通して応答するあり方を探っている。演劇ユニットhumunusを結成し、2020年より東京と福島県富岡町を拠点に作品制作を行う。主な作品に、富岡町を巡るツアーパフォーマンス『うつほの襞』シリーズや、書籍『塵と汐のみち』など。所属する劇団ままごとの作品のほか、オル太『ニッポン・イデオロギー』、遠藤ふみとのデュオなどに参加。虎鶫企画「ひとりだち」にてソロ作品も発表。清原惟監督作品は『三月の光』に参加。
坂藤加菜
1993年東京生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒業。ダンス、演劇、演奏の活動をその都度、隔たりをもったりもたなかったりしながら行う。パフォーミングアーツコレクティブ「バストリオ」、バンド「山二つ」、ユニット「inter/view」にメンバーとして所属。
砂子旭子
監督の母方の祖母。1939年静岡県生まれ。菊川のお茶農家の娘として育ち、洋裁の専門学校に通っていた頃浜松の繊維工場の家へと嫁ぐ。工場で働きながら、2人の娘を育てあげた。趣味は旅行、生け花、洋裁。
清原磋智子
監督の父方の祖母。1934年東京都生まれ。吉祥寺で教師の家庭に育ち、会社勤めを経てデザイナーである夫と結婚し、2人の子どもを育てる。現在は点字翻訳の校正をボランティアで行う。趣味は読書。
Staff
寺西涼(撮影)
1995年神奈川県出身。東京藝術大学絵画科を卒業後、映画美学校フィクションコースで映画制作を学ぶ。その後フリーで映像制作や撮影部をしながら、近頃では劇伴制作も行なっている。監督、撮影、音楽などを勤めた長編『屋根裏の巳已己』が PFF アワード 2020 で準グランプリを受賞。撮影担当作品『結局珈琲』(2026)、『わたしの頭はいつもうるさい』(2025)、『曖昧な楽園』(2023)、『はこぶね』(2022)、音楽担当『見はらし世代』(2025) など。
岩﨑敢志(音響・構成)
愛知県出身。映画美学校卒業後、録音・演出部として仕事をしながら自作の制作を続ける。監督作『うってつけの日』が2024年劇場公開。清原惟監督作品には『すべての夜を思いだす』に演出部として参加。音響担当作として、工藤梨穂監督『オーガスト・マイ・ヘヴン』、団塚唯我監督『見はらし世代』など。
太田達成(助監督・構成)
1989年生まれ、宮城県出身。植物の研究をしていた大学時代、レンタルビデオショップで偶然手にとった映画に衝撃を受け、友人と映画制作を開始。初の短編『海外志向』で「京都国際学生映画祭」グランプリを受賞したのち、東京藝術大学大学院に進学。最新作『石がある』はベルリン国際映画祭をはじめ世界各国の映画祭で上映され、全州国際映画祭ではグランプリを受賞。現在は一般社団法人こども映画教室で教育にも携わりながら生活をしている。
よだまりえ(音楽)
1992年東京生まれ。2008年より、ピアノ弾き語りによる自作曲の制作・演奏活動を開始。2013年10月、WEATHER/HEADZより1stミニアルバム『それぞれの点について』をリリース。現在はソロ活動のほか、宅録ユニット“Σ°))))∈”としても活動。ダンサーや映画監督など多分野の表現者との協働も行う。
A Window of Memories
上映劇場
順次追加予定
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Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下|8/7(金)公開|050-6875-5280東京都Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下|8/7(金)公開|050-6875-5280
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シネマイーラ|10/16(金)公開|053-489-5539静岡県シネマイーラ|10/16(金)公開|053-489-5539
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出町座|9/11(金)公開|075-203-9862京都府出町座|9/11(金)公開|075-203-9862
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シネ・ヌーヴォ|9/12(土)公開|06-6582-1416大阪府シネ・ヌーヴォ|9/12(土)公開|06-6582-1416
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元町映画館|9/12(土)公開|078-366-2636兵庫県元町映画館|9/12(土)公開|078-366-2636
清原惟監督過去作上映
京都:出町座
「清原惟監督特集 七つの合図、夢のなかで」
9/11(金)~9/24(木)開催予定
上映作品:
<長編3作品>
ひとつのバガテル 2015年/72分
わたしたちの家 2017年/80分
すべての夜を思いだす 2022年/116分
<短編4作品>
波 2017年/5分
網目をとおる すんでいる 2018年/15分
これが星の歩きかた 2020年/26分
三月の光 2022年/26分
大阪:シネ・ヌーヴォ
『すべての夜を思いだす』同時上映予定
A Window of Memories
8月7日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか 全国順次公開
監督・編集:清原惟
出演:砂子旭子、清原磋智子、小山薫子、坂藤加菜
テキスト:砂子旭子、清原磋智子、清原惟
構成:岩﨑敢志、太田達成、清原惟
撮影:寺西涼、清原惟/音響:岩﨑敢志
助監督:太田達成
音楽:よだまりえ
エグゼクティブ・プロデューサー:越後谷卓司
プロデューサー:清原惟
企画:愛知芸術文化センター/製作:愛知県美術館
2023年/日本/67分/カラー/G
配給・宣伝:amieee
宣伝協力:プンクテ
デザイン:明津設計




